2013年7月22日月曜日

IDCF2013 コンペ(前篇)

今年で10回目を迎えたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭だが、私が参加するのは3回目。昨年同様、「コンペ作品フリーパス」(前売限定3,000円で長編・短篇コンペ作品すべてが観られる)を購入し、のべ4日間8作品を観賞。やはり今年も短篇プログラムの上映を観ることはできなかったし、長編コンペに出品された日本映画を観ることもできず、長編コンペ12本中9本の外国映画のうち8本を観るという選択に。

フロントライン・ミッション』と『狼が羊に恋をするとき』に関しては感想を記事にしたものの、その他の作品についても軽く振り返っておきたいと思う。

まずは、最優秀作品賞を受賞した『チャイカChaika)』。スペインの新鋭ミゲル・アンヘル・ヒメネス(Miguel Ángel Jiménez)監督による長編2作目。個人的には最も楽しみにしていたのが本作であり、今回のコンペ観賞作の中で最も魅了されたのも本作。昨年同様、極私的審査結果と審査員が出した結果が一致した形だが、今年の場合はグランプリのみならず、上位3作品が見事に一致(監督賞に『フロントライン・ミッション』、脚本賞に『セブン・ボックス』)。ポピュラリティやメッセージ性からすれば断然他の2作に軍配が上がるだろうが、そこはやはり「芸術性を競う」映画祭の宿命(?)からか、無難ながらも納得のグランプリ。(『フロントライン・ミッション』はもう既に十分な評価を各所で得ているし、『セブン・ボックス』は何か賞を絶対あげたい作品ながらグランプリはちょっと違う感じだったので、そうした「事情」を鑑みても妥当かと。)



『チャイカ』は映画祭映画的な側面が際立つ、いわゆるアート系な映画でありながら、当初は「狙った」のであろう多国籍感(本作は、スペイン・グルジア・ロシア・フランスによる合作)が、自然と「滲み出る」無国籍性へと少しずつなだれ込む。しばらくするとワンパターンにも思えて来る映像美が、何の躊躇いも無く反復を続けることによって醸成される心地好いマンネリとその微かな変容がもたらす無量無辺。荒涼とした大地をデジタルがフラットにとらえる画には、自然の慈しみも厳しさも廃されて、徹頭徹尾「そこに在る」という事実だけを刻むかのよう。だから、それらの光景が湛えている美しさは、決して人間をやさしく包んでくれたりすることはないし、彼らがそうした美しさとシンクロを見せてゆくわけでもない。寡黙な物語ゆえ、叙事の裏に潜む懊悩の暴発が時折訪れる。そして、そのときようやく彼ら(登場人物)は自覚し、僕ら(観客)も気づく。誰もが欲する、「ここではないどこか」について。

とにかく耽美主義的な眼差しに終始する画の連続は、単なる心地好さを求めているわけではなく、自然(空と大地)や文明(列車や建造物)の壮麗さに必ず人間の卑小さを刻印してる。それは、彼らの心がまさに精「神」として、人知を離れ、神のみぞ知るかの如き迷走を繰り返す様と見事に重なりもする。海から始まるこの物語において、冒頭で船を下りた二人にとっての動かぬ大地での暮らしはきっと、終わりの約束された逗留だったのだ。動き出す列車を見るとき、宿命が動き出すとき。移ろいゆくなかで、留まる者と動く者。離れてゆく者、見送る者。


セブン・ボックス7 cajas)』の上映は、コンペ作品中最高潮の盛り上がり。土曜昼という絶好のスケジュールもあってか、場内は満席近い大盛況。105分の上映時間も90分弱の体感で疾走する緩急抜群(「緩」は数割程度だけどね)な、空回らぬ意気込みの心地好さ。これまで20本しか制作されていないというパラグアイ映画の分水嶺になり得る、可能性の宝庫。これまでCMなどの制作を手がけて来たというフアン・カルロス・マネグリア(Juan Carlos Maneglia)監督は、映画を専門に学んだことはなく、映像制作の仕事のなかで習得した知識や技術を映画制作に結実したと語っていた。上映後のQ&Aで、「韓国映画や香港映画を思わせるアジア映画的な要素を垣間見られるが、意識したのか」といった質問が出るも、「パラグアイではそういった映画を観ることができないので・・・」という返答。いろいろな映像作品につながる想起が連続しながらも、何処かコピーの気配がしない鮮度が保たれていたのは、そんな「無垢」の産物だったのかも。

パラグアイ社会がかかえ闇を屋台骨に展開する物語でありながら、善きも悪きもそれらの構造に従順に組み込まれる事ない現実が、人間の滑稽さと逞しさを皮肉り、それでも賛歌。「大きな物語」が失われようとも、小さな小さな物語の連綿は社会をやがて映し出す鏡。社会がどんなに個人を駆逐しようとも、むしろ個人を駆動する。朗らかながらも強靱な志を感じさせるフアン・カルロス・マネグリア監督の人柄にも魅了され、遠い国で芽吹いた希望の予感を共有させてもらった気がしてみたり。



『セブン・ボックス』は審査員特別賞でも監督賞でも好い気がしたが(勿論、脚本賞であることに異論はないよ)、クレジットを見てみると、監督はタナ・シェムボリ(Tana Schembori)と共同ながら、脚本はマネグリア監督が中心になって書かれたようで、そんな配慮(?)もあったりしたのかな。(個人的には、台詞やプロットというより「あの手この手」で試された映像アプローチこそが本作の語りの肝だとも思ったので、監督賞でも好かった気がしたもので。)


『チャイカ』は劇場公開は難しいかもしれないけれど(でも、字幕は太田直子氏が担当してました)、ラテンビート映画祭あたりでの上映可能性はある!?(ただ、ロシア語で舞台も・・・だし、監督がスペイン人だってだけじゃ無理か。) 『セブン・ボックス』こそラテンビート映画祭で上映されたりするかもね。劇場公開のポテンシャルもありそう。