2013年12月30日月曜日

2013年の映画ベスト10+

昨年末のベスト10記事では、今年はあまり映画観られないかも発言してたくせして、結局それほどのペースダウンもせずに淡々と(実際は眈々!?)映画観てました。強いて減らした方面があるとすれば、劇場公開作のうちの拡大系ものかな。春から仕事内容が(ここ数年と比べて)ガラッと変わったので、仕事の仕方とか姿勢とかに慣れるのに予想通り時間も労力も費やしたけど、その分《映画を観る》という「日常」を軸足にすることで、ブレがち揺れがちな生活方針を時折軌道修正できたりも。そういった意味では、映画祭等の前売購入&日時指定といったフィックス観賞の方が都合好かったりして、映画祭で積極的に「観て(おいて)しまう」ようになったかな。(以前は、公開決まっている作品は後回しか観ないかにしてたけど)

昨年までは洋邦分けたり、劇場公開作と映画祭上映作品を分けたりし、それぞれでランキングつくったりしてたけど、とりあえず今年は全部まとめて「ベスト」を選出。ただ、劇場で初めて観た新作(一般公開が初めてという作品は対象)から。ちなみに、今年の劇場観賞本数は300本強。1日1本弱ってことなんだけど、感慨的には「そんなに観てたっけ?」って印象なので、そこそこ「我ながら適正」の付き合い方ができ始めたのかな、と楽観視。

以下、今年観たマイベストな映画たち。(観賞順)

 湖畔の2年間

 横道世之介

 アントニオ・カルロス・ジョビン

 ザ・マスター

 Oh Boy

 風立ちぬ

 マイルストーンズ

 エリ

 トム・アット・ザ・ファーム

 北(ノルテ)―歴史の終わり

 42 世界を変えた男

 ILO ILO

 かぐや姫の物語

 オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ


『湖畔の2年間(Two Years At Sea)』は、恵比寿映像祭の上映プログラムの一本。展示にも参加していたベン・リヴァースによる映像叙事詩。恵比寿で二回上映され、二回とも観に行った。貴重なフィルム上映でもあった。今年も二回観た『Playback』の三宅唱監督も観に来ていてゴキゲンだった(ように見えた)。更に、今年の爆音映画祭でも上映され(こちらはデジタル上映)、そちらにも足を運び、海外amazonからDVDを購入し・・・とにかく、はまりまくった1本。

『横道世之介』は、ここ数年何本も映画化されている吉田修一原作もの。とはいえ、それらの群からは見事に逸れ、小説と映画という異なる表現が素敵なめぐり逢い。ラストで流れるアジカンの、イントロ聞こえるドラムの音は、ノスタルジック前のめり。ヒット作に恵まれぬ(特に映画で)高良健吾(すごく好きな俳優だ)に、このうえない代表作が生まれた幸福。『蛇とピアス』の二人が全く頭によぎらない・・・という傑作の証明。記憶は哀ではない。記憶は愛である。(盗作)

『アントニオ・カルロス・ジョビン』は、有楽町で二回観た。ブルーレイも買・・・うつもり。今年は日常(特に仕事)で心身疲れる日々だったゆえ、映画はあくまで「気分転換」「享楽」をモットーに接した一年。左脳停止、右脳開放、身も心も委ねてしまえ。そんな私のお誂え向き。ボサノバの心地好さ、語らず醸し続ける絵巻。

『ザ・マスター』は公開初日に観たものの、終始圧巻で圧倒しきり。何が何だかわからぬままに見終えて茫然自失にさようなら。晩秋、悲願のフィルム上映で再会したマスターピース。つかめないことの正しさが確信できれば、もう何度でも酔う覚悟。

『Oh Boy』は、来年シアターイメージフォーラムで『コーヒーをめぐる冒険』として劇場公開される。とってもファニーで豊かにタイニー、だけど最後はファンキー・シリアス。スイーツ大好きな僕だけど、コーヒーは苦味全開銘柄限定。そんな僕の極上一杯。

『風立ちぬ』は、というか宮﨑駿の映画は、人生のランドマーク的存在。実は、初めて映画というものに圧倒された体験は、地元の市民会館大ホールで観た『風の谷のナウシカ』だったと記憶する。それからもずっと傍にあったけど、大学入学、就職、再就職という人生の節目に決まって公開されてきた宮﨑駿の映画はもはや、やっぱり重大事件。そして、今の仕事に就いて十年目、第二のスタート的な今年に公開された『風立ちぬ』、そして引退宣言。ただの偶然を必然として語りたくなるほどの存在って時点で既に、染みつくというより棲み着いているんだね。

『風立ちぬ』で始まった今年の夏休みは、ジョン・ダグラス&ロバート・クレーマーの『マイルストーンズ』で終わりを告げた。冥界へ「来て」と呟こうとした可憐な祈りが「生きて」に変わって始まった夏。命の誕生に立ち会うラストで手を振った夏。

『エリ』は、ラテンビート映画祭で観たメキシコ映画。監督のアマ・エスカランテは、(本作のプロデューサーにも名を連ねる)カルロス・レイガダスの作品への参加経験もあり、作風も明らかに「傘下」にありながら、単なる賛歌に堕すこともなく、頼もしすぎる師弟関係の垣間見にホクホクゾクゾク。(来年はなんとレイガダス作品初の劇場公開が!ユーロスペースで『闇の後の光』が公開されるみたい。全作品に日本語字幕あることだし[オムニバスで参加した映画もラテンビートで上映されたし]、併せて回顧上映も期待したい。全て再見したい!)

『トム・アット・ザ・ファーム』は、堅実なワクワクやドキドキが多勢を占めた今年の東京国際映画祭にあって、その他の作品全部を足しても叶わぬ華麗なる戦慄。実は、満を持したまま未だ観ぬ『わたしはロランス』。グザヴィエ・ドランのフィルモで唯一のミッシング・ピースとなった同作は、2014ベスト当確一番乗りなことだろう。真にローカルなものこそが、正にユニバーサルだという事実。それをセクシャリティにおいて挑む新たな地平には、きっと豊饒な大地が待ってるはずだ。

『北(ノルテ)―歴史の終わり』は、超長尺作品ばかりな故に映画祭での上映すらままならぬラヴ・ディアス最新作。彼の作品群では短めな250分。休憩なしでの上映だったので、『旅芸人の記録』や『花を摘む少女と虫を殺す少女』の休憩なし上映を上回る自己新記録。という記念も込みではあるけれど、TIFFでの評判が思ったより芳しくない印象ながら(カルロス・レイガダス特集の時にも同様のムードを感じたな)、個人的には未刺激心酔ポイントを連打され続けた4時間超。ラブ・ラヴ・ディアス。

『42 世界を変えた男』は、もしかしたら映画祭疲れに絶好恰好の慰労剤だったからかもしれぬが、それでもここまで厳かで穏やかなブライアン・ヘルゲランドの正攻法には、約束された魅了が確かにあった。黒と白の架け橋が、赤ではなく青であった美しさ。まだまだ青い僕には眩く輝くシルヴァー・ライニング。

『ILO ILO』をフィルメックスで観る直前、同作の監督であるアンソニー・チェンの会見に参加したのだけれど、すぐ目の前でユーモアを交えつつも理路整然と語る好青年な姿は、昨今の日本映画(とりわけインディペンデント)に感じる閉鎖性や閉塞感とは実に対照的で、プロデュースやアピールという外向きな力が見事に前向きで、それでいてどれだけ外を向いても空洞化しない堅牢無比な内面がそこはかとなく滲みもしてる。そんな自信と他信に裏打ちされた慈愛の語りには、衒いからは断じて生まれ得ぬ溌剌とした機微が氾濫してた。

『かぐや姫の物語』の終盤、かぐや姫が月に還ってゆく場面。場内に、女の子の泣き声が響きわたった。声の感じからは小学校低学年くらいだろうか。その哀咽に、悲しみが正しく愛おしさの裏返しであるという事実を改めて知らしめられた大人たち。そんな大人たちに降り積もっていた緊迫や退屈や冗長や興奮は、すべてがやさしさに包まれて、エンドロールが終わるまで、空気すべてが微動だにせず。「映画を観る」とは、どういうことか。とりわけ、自分にとって。そんな問いかけがいつしか常駐テーマとなった今年の後半。おまけに、和の芸術表現にみるみる惹きつけられていった私的文化潮流も今年の大きな変化。そんな私にとって、僥倖が凝縮したかのような邂逅の体験。すべての一瞬が千載一遇であり、すべての一瞬は一期一会。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を、クライスマス・イヴの昼下がり、絶妙な寂れ具合の吉祥寺バウスシアターで観た。シアター1の大きなスクリーンとスカスカな客席、今や昔ながら的存在感となった非常口誘導灯。すべてが愛しき今此処感。身を委ねられるものならば、心は当然持ってかれ・・・。目と耳がひたすら吸い寄せられてたゆたい続け、己のオールを掴む気はない。全権委譲の至上の幸福、至福時間はエンドレス。ヴァンパイアにとって人間の一生が一瞬であるように、私にとっての本作は、瞬き忘れた瞬きのとき。


昨年までは区分だとか順位とかを決めてたし、自分以外を意識した「配慮」的な思考も絡んでたように思う年間ベスト。今年は、区分や順位をやめたこともあり、より自由に選出できた気も。(勢い余って本数もちょっと無視したり・・・10本のつもりで10数本になっちゃいました。)そもそも、こうして「発表」とかした瞬間は、他人の眼にさらされるし他人の眼が何か言ってくれたりもするけれど、結局何年も経って振り返ってくれるのは自分だけだろうし(笑)、だったらそんな未来の自分にとって価値ある「ベスト」こそがまさにベストなんではないかな、と。2013年の自分が何を想って生きてたか。そんなことを垣間見せてくれる並びにしようかと。

上記の14本にしぼるまえ、書き出した映画は他に12本。

拡大系では、『クラウド・アトラス』(2回観に行っちゃいました)と『ゼロ・グラビティ』(初日に2回観に行っちゃいましたし、その3日後にも観に行っちゃいましたし、もう1回くらい観に行っちゃいそうです)。

中規模・ミニシアター系では、『汚れなき祈り』、『偽りなき者』、『君と歩く世界』、『コン・ティキ』。どれも観賞直後の感触は確実に年間ベスト級。2013年の自分にとってのスペシャリティがもしかしたら些か不足してたのかもな。

イメージフォーラム・フェスティバルで観たジョナス・メカスの『ウォールデン』、『リヴァイアサン』も是非入れたかったのだけど、何となくはみ出てしまったという無念。

個人的には小粒揃いながらも着実に幸福続きだった東京国際映画祭観賞作品では、コンペで観た『エンプティ・アワーズ』がしみじみと忘れがたき一本に。

東京フィルメックスのコンペでは『ハーモニー・レッスン』に心酔し(後半は個人的に大失速)、『鉄くず拾いの物語』でダニス・タノヴィッチの飽くなき探究心と屈強チャレンジングにただただ感服。

アンスティチュ・フランセ東京で観たアラン・レネの新作『あなたはまだ何も見ていない』が誘う魅惑ラビリンスには、何度となく迷い込みたい気分。豪華キャストにだまされて、勢いで公開決まったりしないかな・・・(岩波ホールでもいいからさ)


今年はブログに全然記事化してなかったこともあるし、備忘録的にももっとしっかり回顧しておきたいところなんだけど、長くなりすぎたので、ここらでグッバイ2013。来年早々気が向いたらプレイバック2013、かも。来年は、気軽に頻繁更新目指します・・・たぶん。正直、今年はブログにしてもツイッターにしても、付き合い方というか向き合い方というか、混迷に混迷って感じで「遠ざかる」ことで暫時解決貪ってた気がします。何事も自分なりのスタイルを見つけたり確立したりするのって難しいものですね。2014年は則天去私のオラシオン。よいお年をお迎え下さい。