2013年7月18日木曜日

狼が羊に恋をするとき

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013のコンペ作品2本目の観賞。台北駅近くの南陽街という予備校が多く集まっているという一角が舞台。地味に滋味な群像的書割に、ミュージックビデオ風味の青少年たちが右往左往。ごちゃごちゃ玩具箱な渋滞は、解消が予告されてるかのような布石感に溢れ返っていたりもするものの、アジア映画らしさをこってり吸収し尽くした台湾娯楽映画の今がある!?

私が本作を観たのは日曜夕方の回だったのだが、その前の『フロントライン・ミッション』が終わって外に出ると、入場待ちの列が出来ている・・・。ちなみに、この映画祭は全席自由席(前売も当日券も)で、整理番号などもない。が、大抵、開場前に待っている人など僅かだったりするので、続けて観る場合でも、ブラブラしてきて開場時刻前後に戻ってくるのがいつもの私的流儀だが、ちょっと心配になってしまい、出来てる列の後につく。(開場までもそんなに時間なかったし。)監督による映像チェックに時間がかかり、実際に開場は遅れたものの、暑さや怪しい雲行きもあって、とりあえずロビーに入れるだけ入らせてくれた上で開場待ち。誘導スタッフはおそらくボランティアが中心なので、地に足の付いた配慮に自然と寛ぎおぼえたり。開場が遅れることに関しても、「監督がなかなか映像にご納得いただけないようでして、少し調整に手間取っております故・・・」という正直なアナウンスは、イベントのプロなのだとしたら規準に適わぬかもしれないが、ボランティアならではの醍醐味(?)として癒し効果を発揮する。

後から知ったのだが、本作の主演男優クー・チェンドン(柯震東)は『あの頃、君を追いかけた』に主演してたんだとか。昨年の東京国際映画祭で上映され、あちこちから絶賛の声が聞こえてきて、いよいよ9月14日から二本でも劇場公開される同作は、台湾での社会現象的大ヒットのみならず、香港でも『カンフー・ハッスル』の記録を塗り替えて中国語映画の歴代興収ナンバーワン記録を樹立。というわけで、いつもの場内の客層とは異なった女性勢(アジア映画ファンと思しき面々)が映画祭の雰囲気に華を添えてくれていた。チケット代は大した額では無いので、動員如何でどうこうというのはそこまで意識しないのかもしれないが、話題性としては「この手の作品」もコンペに何作か入れても好いのかも。(でも、そういう「色気」が見事にみえないところも、この映画祭の好いところではあるんだけどね。)

で、カラフルポップな本作に色めきときめきウキウキしたか・・・というと、正直序盤から全然ノレなかった。決して作り手が拙劣な訳ではなく、あくまで個人的な趣味というか波長とというか、そういったものが本作のウキウキ成分を全くキャッチできなかった・・・という印象が終始。つくりがつくりなので、飽きも退屈もしないのだけど、ハイボルテージになるべき場面で「ふむふむ、そうするんだね」的俯瞰スタンスな構えになっちゃう悪循環。もしかしたら、カチャカチャ計算してる感が画面から伝わってきて(あくまで、勝手にそれを嗅ぎ取って)しまうからだったのかも。

とはいえ、終盤の疾走感あふれるドラマチック・クライマックスでは、「あれ?あれれれれ!?」というくらいの高揚感が私にも充満っ!と思いきや、やっぱり「俺のリズム」をとことん狂わす流れ、アプローチ。ま、やっぱり趣味の問題なのだろか。

とはいえ、予備校の授業風景なんかは懐かしく、そうした「ちょいキュン」はぼんやり持続してたかな。上映前に登壇した映画祭のディレクターが、「かつての駿河台を思い出す」なんてコメントしてたのも至極納得で、まさに受験が戦争めいてた時代の風景。私の頃には、最大のピークは越えていたとはいえ、それでも私が通っていた駿河台にあった予備校の大教室は、本作に出てくるように浪人生でびっしり。しかも、狭っ苦しいスペースに詰められまくり。瀧沢ディレクターも同じ光景を想起したのかな。

上映後のQ&Aでも出てきた話題だが、本作は予備校街を舞台にしてはいるものの、予備校生自体が物語の主要な登場人物という訳では無い。ただ、物語の「背景」としては魅力的な機能を果たしてはいる。ホウ・チーラン監督としては、「夢を追いかけつつも、そこには成否の分岐が待ち受けており、やがては皆そこから巣立ってゆく場所」という空間の魅力を、既にそうした時代を過ぎた大人たちのドラマと重ね合わせながら見られることを願っていたようだ。アジアの青春映画で最近流行の、現在と過去を往来するタイプの或る種変型とも言えるかも。適度な閉塞感(実際の撮影はどうか知らないが、確かに「街の一角」のみで進行するミニマムさがある)は、若者の「閉じこもりたい」けど「出てゆきたい」な内面とは巧くマッチしてるかな。

ポピュラリティは十分だから、(字幕つけたわけだし)そのうち劇場公開ありそうだ。全く個人的な推測だけど。(そうすると、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭出品」という併記で、少しは映画ファンのなかで映画祭の認知が高まるかも!なぜか、勝手に応援団メンタリティ。)


原題は「南方子羊牧場」で、英題が「When a Wolf Falls in Love with a Sheep」。
ジエン・マンシュー演じるヒロインは予備校の職員で、彼女は主人公が働く印刷所に出す試験の問題用紙の隅にボランティアで(勝手に)イラストを描いている(イラストレーター志望)。というか、そもそもあんなこと許されるものなのか・・・。で、そこにいつも登場するキャラクターが羊。で、主人公と「その場」をつかってのコミュニケーション(恋愛的駆引)が始まって・・・という展開。