2013年7月9日火曜日

アウト・イン・ザ・ダーク

先週末から始まった第22回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて観賞。実は、初めて足を運んだ同映画祭。故にちょっとだけ緊張(?)したが、他の映画祭にはないフランクさやお祭りムードが漂っていたりもして、微妙な上映環境も手作り感が何となくカバーしてくれたり(くれなかったり)。実際、LGFFへの参加を躊躇っていたのも、映画館での上映ではないという点だったりもして(でも、新宿バルト9で一部開催された年もあったよな)、最近では積極的に「参加しない理由」ばかり探しては安息を貪ることに精出しがちな私としては、今年も参加は見送るはずだった・・・けど、ドイツ映画特集でドイツ文化センター@青山一丁目に行く予定だったので、東京ウィメンズプラザホール@表参道が心的急接近!本作の予告編とか観たら行きたくなって、東京ウィメンズプラザホールの写真をみたら段差のある座席!ドイツ文化センターの平面床に椅子並べ状態で観ることに早くも疲弊し始めた脆弱根性も手伝って、急遽駆けつけてみることに。(本作の上映は18:35開始だったのだが、ドイツ文化センターで18時過ぎに終わる映画を観てから行ったので、なかなかハードな移動になりました。)

観賞のきっかけとしては、度々見かける受賞実績の影響がありつつも、やはり二つの「壁」(パレスチナ問題と同性愛)をどのように描いているのかが興味深かったということと、個人的にイスラエル映画と相性が好いということ。2010年の東京国際映画祭コンペでのグランプリ受賞作『僕の心の奥の文法(Hadikduk HaPnimi)』は個人的にもグランプリだったりしたし(劇場公開はおろか、ソフト化もBS・CS放映も一切ないとはどういうことか・・・)、昨年の東京フィルメックスでグランプリを受賞した『エピローグ(Hayuta and Berl)』もやはり個人的グランプリだった。他にも昨年では、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で観た『レストレーション~修復~(Boker tov adon Fidelman)』も実に味わい深かった。(その『レストレーション』の監督ヨッシ・マドモニーの新作には、本作でロイを演じるMichael Aloniが出演している。)国家としてのイスラエルも、イスラエルの良心代表的なアモス・ギタイも、正直苦手だが、そうした声高な自己主張とは別種の淡々とした清澄さで魅了してくれる上記作品群は極めて好みだし、そういった作品たちを日本にもっと紹介して欲しい。今年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭に出品される『フロントライン・ミッションRock Ba-Casba)』というイスラエル映画も楽しみ。)

物語は、パレスチナ人の学生ニメルがテルアビブのクラブでイスラエル人の弁護士ロイと出会い、恋に落ちるところから始まる。ニメルは大学で心理学を学び、テルアビブの大学で講義を受けるために通行許可証を手にできたのだが、それがある事情により失効してしまう。

ニメルは自身がゲイであることを家族にも隠している(知られれば「村八分」になってしまう)が、ロイは家族にもカミングアウト済。予告なく恋人であるニメルを夕食に招いたりするほどだが、それでも両親は「いい加減、まともになったら?」的な対応で彼の本性への理解は極めて乏しい。社会的地位のあるロイの父親はまさに「イスラエル」、そして父親を失ったニメルの家族はまさに「パレスチナ」。結局、背景は違えども、どこまでも張り巡らされている壁。社会の許可なしに通行できぬ境界を、個人が乗り越えられるのか。最後に愛は勝つ?それは境界を破壊することでも、無視することでもなく、利用することなのかもしれない。負けるが勝ち。いや、闘争こそが壁を生む。ならば逃走こそが壁を消す?

タイトル通り、夜の場面が多いし、そのうえ光はあまり射し込まず、わずかな灯りが点綴している光景が続く。会場内は真っ暗とは言い難い(非常口のランプが多く、明るい)環境だったりもして、画面が見づらかった為、映像への没入が削がれて正直残念だったりもした。とはいえ、画面の方が闇につつまれているという状況も、それはそれで意味深に思えて来たりもして、普段は体験できぬ「薄明」のなかでも観賞は、独特の感傷をもたらしもしてくれたかも。