2013年5月24日金曜日

きっと、うまくいく/3 idiots

インドで歴代興収の新記録を樹立したという本作は2009年の映画。おなじみのボリウッド製ミュージカル映画とはやや異なったヴィジュアルで、未踏の愉しみに触れられそうなワクワク胸に、ちょっと遠征してみたり。インド映画としては珍しい小規模ながらも拡大公開(去年の『ロボット』とかもそうかな)となった本作ゆえに、シネコンの大スクリーンでボリウッド堪能したい熱。チネチッタでの一週目は、個人的にはチネチッタで最も好きな11番スクリーンでの上映ということもあり、行って来ました。本拠地(?)シネマート新宿では平日でもかなり混雑してるといった情報が聞こえて来てもいたので、いつもはゆったり観賞できるチネチッタでのミニシアター系作品とは状況が違うかもという覚悟のもとに入ってみると・・・客層は違うものの(独り客と二人連れとが同数くらい)、いつも通りのゆったり(平たく言えばガラガラなんだけど。平日の夕方だからね)で快適贅沢に観賞終了。

あの大画面で大音量でインド映画観られてるって状況だけで満悦気分にひたれはするものの、本作に充満するハッピー成分は適度過ぎるほどの正しい配合で、確かに飽きることも緩むこともなく余裕で一息170分。ただ、そのサクサク感はインド映画の定石は抑えつつも、ボリウッド特有のトゥー・マッチな喜怒哀楽(とりわけ、怒や哀には余計に熱量割かれたりする)が見受けられることなく、ボリウッド・ミーツ・ハリウッド的なテイストを感じたり。

本作のあらすじを知ったとき、「なぜ、こういった作品が大衆から広範な支持を集めたのだろう」と思いもしたが(主人公の三人組は超エリートの理系大生というのだから)、実際に観てみれば、ただ単にエリートを憧憬するでも茶化すでもなく、競争や序列といった社会のシステムを再考するための舞台として設定されている。そして、明らかに(?)カースト制の根強さとその呪縛から解放を願う民衆の切なる祈りが投影された物語が展開されているように思う(だからこその、歴代興収No.1)。

インドが全世界的にみてもIT業界においてトップクラスの人材を数多く輩出しているという事実は、従来のカースト制に該当するカテゴリーのない「新しい職業」として誰もが挑戦できる分野であったことに起因するという話をよく聞くが、それが権威となった今、エンジニアといった職業も一つの名誉ある「カースト」になり得たということだろう。そして、三者三様の呪縛からの解放。自由への渇望。学長への度重なる反抗は、社会的な権力や因襲といった外圧となる大きな既存の権威への懐疑から生まれるものながら、本作が掘り下げるのはむしろ内的な枷の自覚にある。だからこそ、社会を変えるよりも自分が変わることが重要であり、それでこそはじめて「すべてうまくいく」気分を味わえる。どの社会にも共通する幸福必定思想ではあるが、とりわけインドのような社会においては勇気づけられる「生き(往き)方」なのだとも思う。

本作の原題は、「3 idiots」。ある辞書によれば、「idiot」とは「官職につけない人」という意味のギリシャ語に由来しているという。なるほど、彼らはまさに官職(既存秩序の枠組を維持する立場)につくような人間ではない。闘争による革命ではなく、セルフ革命による幸せ探し。国家に個人(の自由)を認めさせるヨーロッパとは異なった、そもそも個人の自由は所与であるという自然。しなやかな個人を社会が埋め尽くすことはできないのだろう。