2013年8月18日日曜日

ホワイトハウス・ダウン

The pen is mightier than the sword.
(ペンは剣よりも強し。)

そんな言葉をこの手の映画で決め台詞に持って来ちゃうところが、エメリッヒ&ヴァンダービルトって感じがして、「堅いなぁ~」と苦々しくも微笑ましい。ただの思わせぶりや未回収の伏線もどきも無くは無いけど、むしろ律儀な回収ジョブにいちいち減速しがちなとこも。とはいえ、序盤の「ポリティカル・サスペンス内に何とか留まろうとする」流れから後半の「破れかぶれ」に突入すれば、そこそこ気楽におんぶにだっこ。日曜夜のテレ朝で(勿論、吹替で)観たい気分に充たされながら、それを初日初回に駆けつけて特大スクリーン(シネスコだし!)で観てるという豪快バカの贅沢は、それはそれで醍醐味なのだ。

とか言いながら・・・前日深夜に本作のCMを観て予約してた事実を想い出し、あわてて寝たという曖昧な事前期待。ここのところ、『パシフィック・リム』『ワールド・ウォーZ』と初日初回観賞で変な達成感をおぼえた(私自身、初日に観ること自体が極めて稀有なので)上に、お盆時期には映画館に足を運ばない習慣もあって、まさか世間的にも夏休みクライマックスの週末に映画を観に行くなどと思いもしなかった・・・って、自分で早々に予約していたくせに。

学生時代、シネコンでアルバイトしてた頃、盆と正月の劇場の混雑具合は凄まじかった。映画の観客動員が上昇を続けていた時期、シネコン飽和になる前で、バイト先のシネコンでも日中は連日全作全回満席の勢い。ネット予約もなければ、そもそも指定席ですらなかった。入場前の行列整理、座席への誘導も重要ミッション。自分が客なら大の苦手状況ながら、接客する側としては双方向ワクワクな夏祭り。そんな中にありながら、スタジオジブリ作品にも関わらず、絶対に満席にならなかった(実際は何度か満席になってバイト一同感嘆の声をあげたこともあった)『ホーホケキョ となりの山田くん』の偉大さ、潔さ。『かぐや姫の物語』は更に壮絶な予感。当時体感し損ねた高畑勲の怪物っぷりを、今年はしっかりと全身震撼。(ちなみに、『ホーホケキョ となりの山田くん』の英題って「My Neighbors The Yamadas」なんだ。『となりのトトロ』の英題が「My Neighbor Totoro」だからね。ジブリの両雄は、本当におもしろい。)

さて、話をWHDに戻して。

本作の本国興行では、莫大な制作費(といっても、VFXのショボさ[随分と没頭を妨げられた]には明らかな節約仕様を感じたけどね)に比して成績不振との情報を耳にした気がしたのだが、怪獣やゾンビが出てくる映画よりもよっぽど手堅い娯楽作だったし、当然キモサベ・ムービーの偏執ぶりには遠く及ばず、日本でお盆真っ只中の公開は奏功なんではなかろうか。新味もなければ、豪快不足な折り目正しき頭の悪さ。弛緩と疲れの夏バテ脳には、まことにやさしく沁みるのだ。目の前でさっきまで全世界秩序崩壊寸前が展開されていたというのに、ハラハラを微塵も残さずに劇場を去れる爽快感。ランチ享受に即スタンバイ。観ながら頭を過ぎった不満のいろいろまでを忘却させる軽薄の妙、軽妙。活かしきれてない要素が散らばりまくっているにもかかわらず、そのへんはセルフ補完ってことだよね的寛容は、夏の魔法のせいかしら?

監督の趣味全開確信犯の『ローン・レンジャー』や『パシフィック・リム』が興行的に苦戦するのは納得できるけど、エメリッヒの趣味全開ってあくまで確信犯だから、せめてヒットくらいはさせてあげたい気持ちになったりもする。とはいえ、アメリカじゃ不振だったようだけど、確かに自分がアメリカ人(しかも、この時代に)だとしたら、気安く楽しめる設定でもない気がしたし、構造から来る危機にもかかわらず、(表面的には好転したように描かれてるが)実際は何ら構造は変わらぬまま終わりを迎えるために、相克からの解放感を味えることもない。しかも、これまでは「米国史上最悪の危機=世界の終わりカウントダウン」だったのに、本作では「米国史上最悪の危機=米国の終わりの始まり(見ようによっては下克上絶好機)」として描かれているようにも感じられる為、「危機を楽しむ」ことが困難なのだろう。強い人間が自分の強さをアピールするために一旦負け始めると、その後の勝利の味が格別!という従来の手法を無視しているようにも思えたが、その傾向は一つ前の大作『2012』でも同様で(前作『もうひとりのシェイクスピア』では更なる自我の目覚めを経験し)、ドイツ人のローランド・エメリッヒの或る種「面目」躍如の結果かも。とはいえ、劇中での大統領の信条に素直にシンクロできるアメリカ国民はまだまだマイノリティにも思えるし、かといって敵側のロジックも散漫カオスで感情移入は困難だから、当事者としてのアメリカ人の大半は心の置き場を失してしまうのかもね。

『マジック・マイク』観た後だと、チャニングの活躍はついつい「微笑ましく見守る」姿勢で観てしまう。ジェイミー・フォックスも『ジャンゴ』で「リンカーン」やった訳だし、妙なしっくり感をおぼえたり。マギー・ギレンホール(ジレンホールの方が好いのかな・・・というか、ギンレイホールに見えるんだよね)は相変わらず絶対不萌ながら絶対品格が漂うお約束。

主人公ジョン・ケイル(チャニング・テイタム)の娘エミリーを演じるジョーイ・キングの売れっ子ぶりは止まらない。『ラモーナのおきて』で主演済みの彼女は、『ラブ・アゲイン』でスティーヴ・カレルの娘役を、『ダークナイト・ライジング』でマリオン・コティヤールの幼少期を演じてる。でも、早くもちょっと演技が鼻につき始めて来た気がしないでもない。ただ、あの「ドヤ振り」は自身の役割に自信たっぷりな彼女ならではだよね。

個人的に終始好い味出してたと思ったのが、ホワイトハウス見学ツアーのガイドを演じるニコラス・ライト。コメディ要素を一番巧く結実させてた印象。(そういえば、劇場内がもうちょっと自然に笑いがもれる状況だったら、コメディ色がもっと強まって迫ってきたかもな・・・などと思いながら観ていた。)カナダの俳優みたいだけど、これからハリウッド大作なんかにもちょくちょく顔を出しそうな予感。

脇役といえば、ケヴィン・ランキン。人質ルームで調子づいてる敵チームの頭弱そうなアイツです。本作にはテレビドラマでよく見る顔がたくさん出演しているらしいのだけど、海外ドラマ初心者の私には当然把握できる由もなし。ただ、彼はWOWOWで放映されていた『アンフォゲッタブル/完全記憶捜査』でメインキャストの一人だったりもしたので気づけましたよ。でも、だいぶ経ってからだけど(役どころが全然異なっていたからね)。

脚本を担当しているジェームズ・ヴァンダービルト。説明不能の魅力が蠢く私的好物『ゾディアック』の脚本家。毛色は全く異なるが、よくわからないまま気づけば終わってる感はやや近似。


 
 
今夏公開の洋画大作観賞もいよいよ大詰め。先鋒(『ローン・レンジャー』)がまさかの連戦連勝。このままでは今夏の主役はロッシーニ。