2013年8月16日金曜日

チャット~罠に墜ちた美少女~

この邦題じゃ、明らかに微エロB級クライムムービー色。でも、原題は「Trust」。出演はクライヴ・オーウェン、キャスリン・キーナー、ジェイソン・クラーク、ヴィオラ・デイヴィスほか。そう聞けば自ずと明らかに。地に足つけて人間を描くドラマだってこと。

邦題から勝手に想像すると、主人公の「美少女」の堕落ぶりと底無しの悲劇を悪辣な手法も辞さずに大味な展開と勢いで突っ切りそうだけど、実際は違う。そもそも主人公は「美少女」として描かれないし、本人は「美少女」でないことにコンプレックスを抱き、そういった精神状態がドラマの鍵でもある。そして、事件は早々に起こり、あっけなく描かれる。14歳の主人公がチャットで熱を上げていた(同年代だと思っていた)相手は嘘をついており、「実は20歳」「実は25歳」と訂正を重ね、実際に会ってみれば20代でないどころか・・・。しかし、二人は「デート」をし、モーテルで「結ばれる」。本作が語るべきドラマはそこからいよいよ始動する。その事実を知る主人公の親友が学校にそれを報せ、そこから警察へ。似たようなケースがこれまでも発生している(当然州をまたいでいる)のでFBIがやって来て、レイプ事件として捜査を始める。動揺と困惑、絶望に呆然とする両親。「私はレイプされたんじゃない」と、大人に対して反抗し苛立ち続ける主人公の少女。そういった状況を淡々と、抑制の効いた逡巡を積み重ね、信頼(trust)の起源と行方を凝視する。また、信頼の土壌たる自信(confidence)をもそっと掘り下げる。個々のアイデンティティについて分け入りながらも、最終的には家族という形態を通して「信」のありかたを確かめる。(しかし、最後の最後に映し出される「悪戯」は観る者に再審を要求してもいるようなのだが。)ちなみに、「信」という漢字は、「言っていること」と「その人」が違わない状態のことを意味し、それを字で表したものとされる。本作における皮肉と真実を体現する一字でもある。

昨年末にDVDが発売された劇場未公開作。WOWOWにて今月初放映。

監督は、『フレンズ』のロス役でおなじみ(同作では演出を担当することも)のデヴィッド・シュワイマー。テレビドラマの演出を手がける一方、『ラン・ファットボーイ・ラン 走れメタボRun Fatboy Run)』で劇場映画初監督。続く二本目が本作ということになる。

クライヴとキャサリンは共に「出演してる映画の気に入る確率が頗る高い」個人的絶大信頼俳優コンビ。さすが役者出身の監督だけあって、彼らを面白おかしく壊したり荒らしたりすることなく、むしろ彼らが培ってきた信頼(実績)を活かした演技設計で直球勝負。(変化球が多めな二人なだけに、むしろ新鮮)

主人公アニーを演じるリアナ・リベラトは、昨年劇場公開されたジョエル・シューマカー監督作『ブレイクアウト』(ニコラス・ケイジ、ニコール・キッドマン)や今年劇場公開されたフィリップ・シュテルツェル監督作『ザ・ターゲット/陰謀のスプレマシー』(アーロン・エッカート、オルガ・キュリレンコ)に出演しているらしいが、私は観ておらず。彼女は本作によって、2010年シカゴ国際映画祭の女優賞を授与されている。(ちなみに同年の同映画祭では、『夏の終止符』がグランプリを、『終わりなき叫び』が脚本賞と男優賞を授与されている。)

出演作(『ゼロ・ダーク・サーティ』『欲望のヴァージニア』『華麗なるギャツビー』そして『ホワイト・ハウス・ダウン』)が今年日本でも立て続けに公開されているジェイソン・クラークも出演しているし、『ダウト』と『ヘルプ』でアカデミー賞(助演女優賞)にノミネートされたヴィオラ・デイヴィスも安心二重丸。そして、主人公のチャット相手「チャーリー」のキモいじゃ済まされない不気味さは必見。あの「着こなし」(ただのコーディネートだけでなく、重ね方やその見え方)は虫唾が全力疾走。(衣裳はアダム・サンドラー組のEllen Lutter。本領発揮、面目躍如。)

脚本を担当しているアンディ・ベリンは、アマンダ・サイフリッド(セイフライド?)がリンダ・ラブレースを演じることでも話題の「Lovelace」の脚本も書いているらしい。同作の監督は、ジェームズ・フランコがアレン・ギンズバーグを演じた「Howl」の監督コンビ(ロバート・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン)。ロバートは傑作ドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』の監督でもある。「Howl」も興味深いアプローチだっただけに、「Lovelace」がどんな仕上がりか今から楽しみ。

ただ、役者が個々にもアンサンブルとしても実に好い味をもっているだけに、脚本が幾分弱いように感じてしまったのも事実。序盤、アニーが「チャーリー」に会ってから「墜ちる」までの流れを、大学入学の晴れやかな飛躍を遂げる兄の様子と交互に見せる編集は、その執拗さが実に好い。精神の破綻を迎えながらもどこか独特な抑制感が漂うドラマは、編集の妙が産んでいるのかも。編集を担当しているダグラス・クライズDouglas Crise)は、ソダーバーグ組にも参加経験があり、『21グラム』『バベル』やディエゴ・ルナ監督最新作にも参加。最近では、『スプリング・ブレーカーズ』の編集も担当している。