2013年4月4日木曜日

トマス・ボー・ラーセン/Thomas Bo Larsen

『偽りなき者』の余韻というか、不穏な残照がなかなか消えない。

ハリウッド進出が事実上失敗に終わったトマス・ヴィンターベアだったが、そのことによって向かった回帰が見事な更新として作用し、ここ2作(前作『光のほうへ』、そして『偽りなき者』)における傑出した才能の再確認はスリリングな頼もしさに満ちている。

『偽りなき者』では序盤から、マッツ・ミケルセンの抗いがたい魅力が余すところなく画面から溢れ出て来ていたが、実は彼の親友役を演じたトマス・ボー・ラーセンの複雑な内面ながらも「表情」に還元することを耐えねばならぬ感情表現の深奥があってこそ、あの作品の豊かな多層構造が可能になったのだと思う。

最初は主人公の親友役を演じているのがトマス・ボー・ラーセンだとは全然気づかず(髭のせいもあるが)、気づいてからは益々その演技の奥深さに魅入ってしまったものだ。(ヴィンターベアの出世作であり傑作『セレブレーション』におけるボー・ラーセンの存在感は絶品で、あの作品に見事な「破壊」をもたらしていた。)

彼は、トマス・ヴィンターベアとは旧知の盟友。(そして、ふたりとも「トマス」なんだよな。)ヴィンターベアがデンマーク国立映画学校時代に撮った「最後の勝負(Last Round)」にも出演している。また、ヴィンターベアの長編第1作「偉大なヒーローたち(The Greatest Heros)」では主役の一人を演じているらしい。

ヴィンターベアがデンマークに戻って撮った最初の作品「A Man Comes Home」でも主要キャストとして出演している。



トマス・ボー・ラーセンは、そのプロフィールが興味深い。1963年の彼は15歳で学校を辞め、パン屋に見習いとして入る。肉体労働者として働いた後、軍隊に入隊。1984年にガラス職人の資格を得た後、世界一周の旅に出る。そして、1987年にオーデンス演劇学校に入学。(『セレブレーション』のパンフレットより)

彼の独特な存在感や滲み出る人間臭は、身体に刻まれた記憶によるものなのかもしれない。

予告を観る限り、ポピュラリティもそこそこ高そうな「A Man Comes Home」。『偽りなき者』のソフト発売なりBS放映(おそらくWOWOW)なりのタイミングで、何とか日本で紹介されたりしないものだろうか。