2014年1月13日月曜日

Damsels in Distress ダムゼル・イン・ディストレス

ノア・バームバック監督の最新作『フランシス・ハ()』では脚本も共同で担当し、女優としても数多くのノミネーションを受けるなど、いま最も注目される若手女性映画人の一人、グレタ・ガーウィグ(IMDb)。彼女主演の地味すぎる一作。

グレタは、昨年の東京国際映画祭のコンペでも上映され好評だった『ドリンキング・バディーズ』(『フランシス・ハ』と共にタランティーノのお気に入り2013に選出)のジョー・スワンバーグ(IMDb)監督と共同で、『』という作品を監督していたりもする。(彼女のスクリーン・デビューが、スワンバーグ監督作の「LOL」のようだ。)彼女は、やはり劇場未公開の(しかし、ソフトは昨秋リリースされた)『29歳からの恋とセックス(Lola Versus)』(音楽を担当しているのが、Fall On Your Sword!)でも主演。相手役は、『イージー・マネー』シリーズで人気沸騰後、新『ロボコップ』で主役に大抜擢されたジョエル・キナマン(IMDb)。同作は、来月WOWOWおよびスターチャンネルで初放映。評判は芳しくないものの、90分未満だし観ておこう。

本作はソフト販売およびレンタルは無く(ちなみに、ホイット・スティルマン監督の全作品が日本では未DVD化の模様)、配信のみでのリリース。私はスターチャンネルでの放映で最近ようやく観賞(初放映は半年ほど前みたい)。一般受けはしそうにないし、かといってシネフィル熱狂の王道とも違う、でも何処か惹かれて止まない滋味すぎる一作。

「フィルム・コメント」誌が選ぶ2012年のベスト50(劇場公開作篇)では、36位にランクイン。本作のそばには、『父、帰る』のアンドレイ・ズビャギンツェフ監督作「Elena」(前作の「The Banishment」に続いて日本では未公開・・・)や、昨年のマイベストにも選んだベン・リヴァースの「湖畔の2年間」があり、このセレクション(順位的よりラインナップとして)はなかなか好み。

「damsel」は「少女(特に、身分の高い出自の)」、「distress」は「苦悩」や「窮地」といった意味で、「ダムゼル・イン・ディストレス」という言い方は常套句らしい

スターチャンネルWebサイトに掲載されている作品解説では、「キャンパス内の男性優位の風潮を何とか変えようとがんばる女子大生3人組の奮闘を描く、風変わりな青春ラブコメディ」と書かれてて、別に間違ってはいないけど、この文句で最も強調すべきフレーズは「風変わり」。

以下、ストーリー解説から引用。「“自殺予防センター”の運営など、大学のキャンパスで弱者を助ける運動にいそしむバイオレット、ローズ、ヘザーの3人組。彼女たちは、自殺願望者にタップダンスを勧めたり、欝気味の学生には香水の香りを嗅ぐよう勧めたりと、ユニークなアドバイスを行っていた。新学期、編入してきたリリーと仲良くなった3人は、いくつかの恋の始まりや終わりを共に経験し、成長していくが・・・。」

とにかくビートは刻まれず、かといってスウィングが流れるわけでもない。控えめにしようと図っているわけではないのだろうが、恬淡な空気で埋め尽くされる。こちらの手をひっぱったりしない安堵の持続。いつしか彼女たちのすぐそばにチョコンと座る自分。他では味わえない心地好さがある一方、苦悩だって描かれる。しかし、その傷みは、物語の演出に従事するのではなく、あくまで物語る人物たち自身に従属してる。

弱者でも強者でもない、しかしメインストリームにも縁遠い、お気楽すぎには抵抗あるが、がむしゃらになるのもどうかと思う。自分なりの意固地な信条唱えつつ、だけど内心いつでも不安。そんな普遍的機微の一襞一襞が丁寧に描かれる。だから、登場人物達の時に奇抜な発想や行動も、結果の不可解さよりも原因の部分で共有できるのだ。どんな珍妙さにも、好奇な眼差しを一切混入させない。賢明よりも懸命を信じてる。

中盤、失意のヒロインが寮を飛び出しモーテルに泊まる。翌朝、彼女に希望の想いが込み上げて来る。彼女をそんな気持ちにさせたのは・・・石鹸。「この石鹸(ソープ)が私に希望(ホープ)をくれたのよ」。世界はきっと、素晴らしい。

ラストではカーテンコールよろしく、フレッド・アステアの1937年『踊る騎士(A Damsel in Distress)』(音楽は『踊らん哉(Shall We Dance)』同様、ガーシュイン兄弟が担当)より「Things Are Looking Up」をキャンパスで皆で唱って踊って、最後は・・・優美さと、ゆるさ。全篇通して言えることだけど、狙ったり計算したりした狡猾巧緻な「ゆるふわ」じゃなく、真摯に生きることで生まれる「ゆるゆる(直線的には進めない蛇行な私たち)」や「ふわふわ(しっかり踏ん張ろうとするけど浮き足だっちゃうの)」。

主演のグレタは勿論のこと、中心となる四人の各々が見事に独自の魅力にあふれてる。普通はタイプが分かれると、思い入れが誰かに集中しそうなものの、本作の四人は違う。皆が皆、不完全の愛おしさ。そして、アンサンブルによって生まれる「完全」。女優陣はヴィジュアルも見事に個性を際立たせている一方で、男性主要キャスト二人が(知らない男優だったこともあってか)終盤まで見分け困難だったという事実も・・・ただ、そんな混同もむしろ御伽噺のいたずらのようで戯れがいはあったけど。

冒頭では主演のグレタ・ガーウィグの話題に終始してしまったが、本作の監督・脚本を務める(プロデューサーでもある)ホイット・スティルマンは、米インディペンデント映画ではちょっとした伝説の人物のようで、13年ぶりとなる本作は2011年のベネチア国際映画祭のクロージング作品に選ばれている

これを機にスティルマンの過去作(といっても3本しかないし)を全て観てみたいと思っても、前述の通り、日本ではVHSしか出ておらず。しかし、アメリカでは昨夏にクライテリオンから『メトロポリタン/ニューヨークの恋人たち』と『ラスト・デイズ・オブ・ディスコ』のブルーレイが発売されていることを知る。気張ってそちらに手を出すか、向こうでのBD発売が日本での放映等につながることを祈るか・・・。米インディペンデント系の映画って、一部の熱心な固定ファンが(既に)ついている作家のものくらいしか紹介されず、案外ヨーロッパやアジアの映画作家よりも日本に入って来にくい現状に陥ってる気がして寂しい。